狩猟とは (第十二話)


失中への誘い

ある日の朝刊コラムに目を奪われた 其れまで持ち続けた

疑問への回答方程式が其処には記されて居る 其れは

人間同時に視認識別出来る物の数は せいぜい四箇所が

限界と云った学説   まず猟野においては状況は刻々と

変わり しかも其の瞬間は唐突に訪れる 人間の知力さえも

及ばない 暗く深い森奥へと沈殿した”澱”の中から 勢い

放たれる”動”其の多くは”怒”を伴い迫り来る 微かな息遣いと

気配から続く 踏締める草木の合唱   息潜め身動ぎさえも

出来ない射手の左胸は其れに応じるかの様に 早鐘の

如く鳴り響き 正に血の逆流するかの瞬間を迎える

凝視続けた闇の奥より 在るべきもない黒塊が目の前に立ち

無意識の内に引き金を搾ると静寂は戻る

射手にとり 平常心が大切にと成るのだが 心の波動乱れが失中へと誘いやすい事にも気付かされる

構えた銃 視線の延長線上には 1.照門 2.照星 3.標的(獲物)と続くのだが この他にも幾つかの

不確定要素が立ちはだかる 2.照星 3.標的(獲物)の間に割り込む障害! 多くは複数の草木其れに

岩等に成るのだが 集中するには如何にも邪魔をする 更に気を使わされる其の先の背景? 視界にも

映らない もし?の可能性  ”其の先に仲間が居たら” ”里の住人が山仕事に入っていたら” ”猟犬が

もう其処まで来ていたら” ”物陰に建物が有ったら”・・・・・・・・・・・・・

そういった もし?の可能性が 失中の

要因へと繋がりかねない 迷いであり

集中が出来なかったと云う事で 猟場に

置いての条件は 常に動き続けており

一瞬の戸惑い躊躇さえ 結果に大きく

影響を残し やり直し再起動の効かない

真剣勝負の世界では 場当たりの少なく

経験の浅い猟師には 心に刻み込んだ

筈の 各注意事項を瞬間 幾つか或は

全てを失念する事も起きる

パニックに陥り 要件を満たす事無く撃ってしまったとか 視認のみに終わり見送るとか 冷や汗の後日談と

成ってしまう事も結構少なくない モノを見てしまうのだ・注 実績を重ね多くの人に認めて貰うには 課せられた

負荷ひとつひとつ消化取り除き 舞台の主役へと駆け上がらなければならず 漠然と参加する猟から脱皮して

感動の瞬間確かな自信をも確信出来る 充実の日を迎える為に


注・ モノを見る 標的(獲物)の動きに目と注意を奪われ 基本となる肩つけ狙いが疎かに成る事 多くは

   銃を上から見てしまい 結果的に標的上部への 着弾が多い。

                                                          oozeki